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会長からのご挨拶

 

 会員の皆様こんにちは、この度日本蝶類学会会長に選任されました菱川法之です。

 ここにお集まりの皆様は蝶が大好きで蝶を極めることに夢中の方々ばかりで、しかも各業界トップクラスの方々がひしめき合っている中で、何故小生が会長に選ばれたのか、無名のダークホースが三冠を取ったような有り得ない結末に足元が震える思いです。思い返せば世界の蝶の生態解明に心血を注いだ故五十嵐邁先生、日本産蝶類研究の第一人者・藤岡知夫先生、大屋厚夫先生、故宇野正紘先生、高橋真弓先生をはじめ、多くの蝶界の偉大な先達から教えを請い実践した結果今の私があります。偉大な先達の若き日のお顔が目に浮かびます。「いつかこの人のよう私になりたい、必ず超えてやる」と思いながら、未だに足元にも及んでいない私です。私も蝶・命の大好き人間で、特にモンゴルやヒマラヤの道なき道で珍蝶に出会うと脳内アミンと血中アドレナリンが一気に放出されるような快感をおぼえます。戦後日本人で初めてモンゴルのアポロウ スバシロチョウ Parnassius apollo を手にした時の興奮 (1992年の「月刊むし」に矢崎康幸氏がシリーズで連載)。バヤンウルギーから馬で登るモンゴルアルタイ山脈 (alt. 3,000 m) のコリアスモンゴラ Colias tamerlana monngola との出会い。インド北端のタガラン峠 (alt. 5,500 m) のアッコウスバ・マハラジャウスバ・カルトニウスウスバ P. charltonius。ヒマラヤ山脈南端ロータン峠のハードヴィッキーウスバ P. hardwickei、中国青海省アムネマチン山のプルゼワルスキーウスバ P. acco przewalskii、中国タクラマカン砂漠の最奥タシクルガンのヘリブトモンキ Colias wiscottii、キルギスタン内天山のダヴィドフウスバ P. Davidovi、中国-ミャンマー国境徳拇拉峠稜線のノセウスバ P. nosei 等々。会員の皆様とたぶん全く同じで、人のやっていないことを一番乗りでする事が大好きなわがまま坊主で、 他人の思惑など上の空で今まで生きてきました。迷惑をお掛けした方々に今ここで深謝したい気持ちで一杯です。 

 さて、時の流れは容赦無く移りゆきます。少子高齢化の時代の波はこの会場にも押し寄せています。これから毎年のように会員の減少は避けられないでしょう。しかも若手は複数の学会に加入して多額の会費を支払っている状況です。日本蝶類学会、日本鱗翅学会、日本蛾類学会、日本蝶類科学学会など。これからも我々は、もっともっと楽しく生き残って行かねばなりません 。 この事実を肝に銘じて、これからどうすれば良いか皆さんで知恵を絞っていきましょう。蝶・蛾大好き人間の中高年世代と若手世代の明るい未来の為に。それでは若手の世代のみならず時代を担ってきた世代会員の皆様の益々のご活躍を祈念して日本蝶類学会新会長就任の挨拶とさせて頂きます。 

2019年12月

  菱川 法之 

Hishikawa Noriyuki

 

 菱川法之 (ひしかわ・のりゆき)

 1947年東京生まれ。1971年北海道大学理学部卒業。1975年東京大谷専修学院卒業。1982年札幌医科大学卒業。1990 年医学博士。本土復帰前の沖縄・西表島横断からヨーロッパ、シベリア、モンゴル、ヒマラヤ、北朝鮮などを広く踏査し、主に蝶類の撮影を続ける。当会の理事を長く務め2020年からは会長。2018年には磐瀬賞を受賞。代表著作に「東アジ ア蝶紀行」(2003) があるほか、本書に収録された多くの写真は当会会誌 Butterflies に掲載されている。札幌市在住。

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